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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)448号 判決

原告 大日土地こと 紫倉確夫

右訴訟代理人弁護士 大原篤

同 大原健司

右訴訟復代理人弁護士 井関和雄

被告 モリタ建設株式会社

右代表者代表取締役 森田勇

右訴訟代理人弁護士 浜口卯一

同 田口公丈

同 新原一世

被告 山本一益

右訴訟代理人弁護士 宮武太

主文

被告モリタ建設株式会社は原告に対し、金一五〇万円とこれに対する昭和四七年二月一三日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告モリタ建設株式会社に対するその余の請求および原告の被告山本一益に対する請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告モリタ建設株式会社との間に生じたものは二分し、その一を原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、原告と被告山本一益との間に生じたものは全部原告の負担とする。

本判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた判決

一、原告

被告らは原告に対し、それぞれ金二七〇万円および被告モリタ建設株式会社は右金員に対する昭和四七年二月一三日から、被告山本一益は右金員に対する同年同月一二日から、それぞれ右金員支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二、被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1、原告は宅地建物取引を業とするものであるが、昭和四三年二月二日、被告モリタ建設株式会社(以下単に被告会社という。)代表取締役森田勇から、被告山本一益(以下単に被告山本という。)所有の大阪市天王寺区上本町五丁目三番一〇号宅地六〇・二九平方メートル(以下単に本件土地という。)の買収斡旋仲介の依頼を受け、原告はこれを承諾して右仲介契約が成立した。

2、そこで、原告は同年二月三日以後昭和四五年一二月までの間数十回にわたって被告山本との交渉にあたり、その間の昭和四四年四月三日ころ、被告山本も原告に対し本件土地の売買斡旋仲介を依頼したので、原告と同被告との間でも仲介契約が成立した。

3、右交渉中、被告山本の転居先用の土地を探してもらいたい、被告会社が買受けて被告山本に提供するとの事であったので、被告両名の依頼により原告が努力したところ、被告会社が訴外宗教法人菩提寺から同市天王寺区上本町五丁目三番の一七宅地七六・二九平方メートルを代金九〇〇万円で買受けることとなり、その売買契約を取り交わしたこともあった(もっとも、これは建物所有者らが退去しなかったため不履行に終った。)。

4、ところが、原告の約二年一〇ヶ月の媒介斡旋の努力を無視し、原告に対する謀介報酬の支払いを免がれる目的で、昭和四五年一一月二日、原告の直接媒介行為を排除して、被告会社は被告山本との間で代金九〇〇〇万円で本件土地の売買契約を締結したうえ、同月四日被告山本から被告会社への所有権移転登記手続をなした。原告は同年一二月末右事実を知るに至った。

5、なお、被告らは原告に対し、本件土地の売買仲介委託契約をなす際、売買交渉の中途において売主と買主との間の直接交渉により売買契約が成立した場合も媒介成功とみなして仲介報酬を支払うことを約した。

6、また、原告と各被告との間で、仲介契約を締結するに際し、本件土地の売買契約が成立したときは、売買価格の三パーセントに相当する仲介報酬を支払う旨の合意がなされた。

仮りに右合意の存在が認められないとしても、商法五一二条の規定の適用または類推適用により、被告らは原告に対し相当額の報酬を支払う義務がある。

7、本件土地について被告会社と被告山本との間で直接売買契約が成立したのであるが、

(一)、原告は仲介業者として本件売買に、機縁、端緒を与え、原告の行為と売買契約の成立との間には相当因果関係が存在するものであるから、

(1)、前記5記載の特約に基き、

(2)、右特約の存在が認められないとしても、民法一三〇条の法理に基き、原告の媒介行為により本件売買契約が成立したものとみなして、被告らは原告に対し仲介報酬を支払う義務がある。

(二)、原告の行為と売買契約成立との間に相当因果関係が認められないとしても、原告は被告らからの仲介依頼に基き、三年近くの間売買成立のために努力し、被告山本の移転先の物色その他のあらゆる協力を惜しまず、従って原告には何んら責に帰すべき事由が存在しなかったのに、契約の成立寸前に、被告らだけで原告の同意も得ず、何んらの連絡もしないで直接売買契約を完了したものであるから、被告らの右の行為は信義則に反するものであり、民法六四八条三項、六四一条、六五一条二項の類推適用により、原告はそのなした労力成果に相応する額の報酬請求権を取得するものである。

8、なお、原告は被告会社から昭和四六年三月一二日に報酬の一部として金一〇万円を受領した。

9、よって、原告は各被告に対し、仲介報酬請求権に基き、それぞれ売買価格の三パーセントに相当する金二七〇万円および右金員に対する訴状送達の翌日である被告モリタ建設株式会社については昭和四七年二月一三日から、被告山本一益については同月一二日から、いずれも右金員支払い済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、被告らの認否

1、被告会社

(一)、請求原因1のうち、原告が宅地建物取引業者であることおよび仲介契約が成立した日時については知らないが、その余の事実は認める。

(二)、同2の事実は知らない。

(三)、同3の事実は否認する。

(四)、同4のうち、被告らの間で売買契約が成立したこと、その日時、代金額、登記を経由したことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

(五)、同5の事実は否認する。

(六)、同6のうち、前段(報酬額の合意)については否認し、後段の主張は争う。

(七)、同7の主張は争う。本件土地の売買契約が成立したのは、偶発的事故の発生により被告山本の建物が倒壊したため、修復などに代え、金銭的解決をしたことによるものであり、それ以前の交渉およびその経過と右契約の成立の間には相当因果関係が存在しない。しかも、右売買代金は金九〇〇〇万円であるが、これは被告会社の企業としての社会的責任と将来の経営政策上への配慮から、取引の実情を無視して決定されたものであって、正常な取引額ではない。

(八)、同8の事実のうち、金一〇万円を交付したことは認めるが、その趣旨は否認する。

(九)、同9の主張は争う。同主張は時機に後れた攻撃防禦方法である。仮りにそうでないとしても、被告会社は原告に対し信義に反するような行為はしていない。

2、被告山本

(一)、請求原因1のうち、原告が宅地建物取引業者であることは認めるが、その余の事実は知らない。

(二)、同2のうち、原告と被告山本との間で仲介契約が成立したことは否認し、その余の事実は知らない。

(三)、同3の事実は知らない。

(四)、同4のうち、被告らの間で売買契約が成立したこと、その日時、代金額、登記を経由したことはいずれも認めるがその余の事実は否認する。

(五)、同5の事実は否認する。

(六)、同6のうち、前段(報酬額の合意)については否認し、後段の主張は争う。

(七)、同7の主張は争う。

(八)、同8の事実は知らない。

(九)、同9の主張は争う。

三、被告会社の抗弁

原告と被告会社との間の仲介契約は、昭和四四年九月ころ合意解約された。すなわち、被告山本が、金銭的解決を望まず、しかも交渉相手としての原告を信用していなかったため、本件土地売買契約の成立の見込が全くなかったので、原告を断り、以後は被告会社の小路山常務に被告山本との交渉に当らせた。

四、抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、原告の仲介行為と、本件土地につき売買契約が締結されるに至った経過。

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実を認めることができる。

1、原告は大日土地という名称で宅地建物取引を業としている者である(この事実は、原告と被告山本との間では争いがない。)が、昭和四三年二月ころ、本件土地を含めた土地にビルの新築工事を計画した被告会社から、買収が未了となっている本件土地につき、その所有者と売買交渉の仲介を依頼され(この事実については、原告と被告会社との間では争いがない。)そのころから右所有者である被告山本との折衝に入り、まず坪当り金一三〇万円で売却してもらえないかとの被告会社の意向を申し入れたが、当初被告山本は、右坪当りの価格を値上げするよう要求するだけで、本件土地を売り渡す意思があるのかどうかについては容易にその態度を示そうとせず、翌四四年四月になると、被告山本は、本件土地の売買代金を金四〇〇〇万円とし、被告会社の方で、被告山本が本件土地の建物で営んでいる煙草屋の工事期間中の休業補償と不動産譲渡所得税を負担してくれたうえ、本件土地を五坪だけは売買しないで被告山本の所有に残しておくという条件ならば、本件土地を売却してもよいとの意向を示したので、原告は被告会社との間で折衝を重ね、被告会社が建設するビルの一部に被告山本が入居するような解決案を考え、そのための青写真を作成したこともあったが、一方では、移転先を捜してくれるのであれば本件土地を売り渡してもよいとの回答をするなど、被告山本の要求は次々と変更され、果して本件土地を売却する意思が真実存在するのかどうかは把握できないような状態であった。そして、原告が、同被告の意向を汲んで捜し求めたはずの移転先である喫茶店「アラビア」の土地についても、原告が同被告と直接に交渉を続けている間は、同被告は右土地への移転を了解せず、売買代金としては金六〇〇〇万円が話題に上っていたこともあった。

2、そこで、同年九月ころになると、右仲介交渉の行詰りを打開するため、被告山本との本件土地売買の交渉は主として被告会社の小路山常務が担当することとなり、原告は被告会社の依頼により引き続き被告山本の移転先としての候補地である前記「アラビア」の土地の買収交渉に当たるようになった。しかし、右土地は、地上建物の権利関係が複雑で容易に解決ができないため、被告会社としても、ビル新築工事の工期の関係から、やむなく本件土地を除いた部分だけにビルを建築することに設計を変更したうえ、昭和四五年二月にはその基礎工事に着手したが、本件土地を含めた方が効率のよいビルが建築できるので、一方では本件土地の買収工作も続けていくとの両面作戦を進めることになった。そして、右「アラビア」の土地については前記のような事情から買収の見込みが立たないため、同年五月ころになると、被告会社は、被告山本の移転先として、「アラビア」のすぐ近くにある「あたみホテル」の敷地を購入しようと考え、訴外大喜商会こと加納某に右購入工作を依頼したところ、原告も右加納と共に、その所有者である訴外松宮某との交渉に努力し、その結果、同年八月三日、被告会社と右松宮との間で右土地の売買契約が成立するに至った。しかし被告山本からは右土地へ移転するとの返事は得られず、従って本件土地の売買交渉については特に進展がみられないままであった。

3、そこで、なおも右交渉が続けられるうち、同年九月二一日ころ、被告会社が始めていた前記ビル建築の基礎工事のミスから、本件土地上にある被告山本所有の建物が傾き、同被告らが右建物に居住することは勿論、前記煙草屋の営業を続けていくことも困難、危険になるという突発事故が発生したため、被告会社は被告山本と、右建物の修補や営業補償などについて話し合っていたところ、訴外山本幾太郎など仲に入る人もあって、結局、被告山本は本件土地から退去してこれを被告会社に売却するとの金銭的解決の方向で合意が整い、同年一一月二日、被告会社は右事故が新聞報道されたりしたため会社の信用に影響を及ぼす虞れが生じたことも考慮し、従前の交渉で被告会社は金六〇〇〇万円にも難色を示していたのに、これをはるかに超える金九〇〇〇万円で本件土地を買い受ける契約を結ぶとともに、被告山本に対し補償費などの名目で他に金一〇〇〇万円を支払った(代金九〇〇〇万円で売買契約が成立したことについては当事者間に争いがない。)。

ところで、原告は、昭和四五年に入ってからは、被告山本の移転先としての「アラビア」や「あたみホテル」の土地の買収交渉に当ることが主で、被告山本との間で本件土地売買について直接折衝することは少なかったため、右のように被告両名の間で本件土地の売買契約が成立したことは全く知らず、近所の噂さからこれを知り、同年一二月になって被告会社に確めたうえ、仲介報酬を請求するに至ったところ、翌四六年三月一二日、被告会社から原告に対し金一〇万円が支払われた(一〇万円が支払われたことについては、原告と被告会社との間では争いがない。)。

以上の事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

二、原告と被告山本との間の仲介契約の存否。

右仲介契約が成立したと主張する昭和四四年四月ころ、右両者の間で、仲介契約を文書若しくは口頭により、明確な形で締結したことがないことについては原告本人も認めるところであり、原告が被告会社の依頼により被告山本と交渉を進めるうち、右四月ころ、同被告から、本件土地のうち五坪を残し他を売却するが代金は金四〇〇〇万円とし、他に、被告会社に被告山本の煙草屋の休業補償と不動産譲渡所得税を負担してもらいたい旨の同被告側の条件を提示したことがあることは前記認定のとおりであるが、他方、同被告は右条件を満した売買契約の成立について十分煮詰めないまま、移転先があれば本件土地を売却してもよいとの要求を持ち出し、これに応じて原告が提示した「アラビア」の土地については移転することに同意しないなど、同被告は果して本件土地を売却する意思があるのかどうか不明瞭な態度を取り続けたことも前記認定のとおりであり、これらの事実によると、同被告が原告に伝えた売却条件は、原告を通じての被告会社からの執拗な買収工作に容易に応じないための方便ではないかと考えられるところもあり、また、原告としても被告山本の意思を十分に確めることもなく、本件土地の買収を成功させるために、同被告の持ち出す要求をそのまま被告会社に取りついでいたに過ぎないとの面も窺われ、原告が本件土地に関して行なってきた被告山本との間の仲介行為は、被告会社からの受託者として、被告山本への説得に当ったもので(このことは、被告山本に対する交渉担当者が途中で原告から被告会社の小路山常務に交代されていることからも窺われる。)、被告山本の立場に立ち、その利益のためになしたものと解することは困難であるから、原告と被告山本との間で黙示的にせよ、本件土地売買についての仲介契約が成立したと認めることはできない。他に右仲介契約の成立を認めるに足りる証拠はない。

そうだとすると、原告の被告山本に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三、原告と被告会社との間の仲介契約の解除(抗弁事実)の存否。

前記認定のように、昭和四四年九月ころ以降、原告は被告山本との交渉に直接携わることは少くなったとはいえ、その当時同被告が移転先を要求していたのであり、本件土地を被告会社が購入するためには必要不可欠ともいうべき移転先を獲得する目的で、その土地買収の渉に当っていたのであるから、このような事情のもとでは、被告山本との交渉の行詰りを打開するため、原告と被告会社との間の本件土地売買の仲介行為の継続を前提としたうえで、原告と被告会社との間で、本件土地買収のための仕事を分担したことにより、原告が被告山本との交渉から一部退いたものと解するのが相当であって、原告と被告会社間の仲介契約が解除されたものと認めることはできない。他に右解除の事実を認めるに足りる証拠はない。

四、原告の被告会社に対する仲介報酬請求権の存否。

1、本件土地について被告ら間で直接売買契約が成立したのは、前記認定のように、まさに被告山本居住の建物が傾くという突発事故の発生が直接の契機となったものであり、被告山本の移転先物件の提供もなく、従前当事者間で話し合われていた売買代金である金六〇〇〇万円をはるかに超える金額で合意がされるなど、右の事故がなければ到底予想できなかったような条件であったことを考えると、右事故の発生までの間に二年半余りに亘って続けられてきた原告の被告山本に対する仲介行為と、前記売買契約の成立との間には、相当因果関係が存在しないものと解するのが相当である。

そして、原告と被告らとの間で、本件土地について売買交渉の中途において売主と買主が直接取引した場合も、謀介成功とみて仲介報酬を支払うとの合意(請求原因5の主張)が存在したと認めるに足りる証拠はなく、本件土地の売買契約が前記認定のような経緯で成立したものであり、被告らにおいて原告の仲介行為を特に排除しようとした結果であるとは認められない本件(もっとも、前記認定のように、被告らの間で直接売買契約が締結された前後において、原告にはその経過がなんら知らされていなかったことを考えると、右の疑いがないわけではないが、その当時には原告は被告山本との直接交渉からは退いていたこと、原告の仲介行為とは無関係な事故の発生が契機となっていたことなどの事情のもとでは、右事実があるとしても、被告らに原告の仲介を特に排除しようとしたと認めることはできず、他に右のような被告らの行為を認めるに足りる証拠はない。)にあっては、民法一三〇条の法理の適用はないものと解するのが相当である。

そうだとすると、原告は被告会社に対し、仲介契約に基き、売買契約の成立を理由とする仲介報酬請求権を有するものではない。

2、しかしながら、前記認定のように、本件売買契約が成立するに至るまでの間、原告は被告会社との仲介契約に基き、仲介の努力を継続していたのであり、しかも、本件いずれの証拠によるも右売買契約締結当時、原告の仲介行為が継続されていたのでは、もはや本件土地の売買契約が成立する余地がないという状況に至っていたとは認められず、原告が右仲介行為を継続できなくなった(仲介物件について売買契約が成立した。)点については原告の責に帰すべき事由はないのであるから、前記認定のような事情のもとでは、当事者間で直接売買契約が締結されたことにつき、委託者である被告会社に信義に反する行為がない場合においても、民法六四八条三項を類推適用して、原告は被告会社に対し割合報酬を請求しうるものと解するのが相当である。

そこで、次に右報酬額について検討すると、原告と被告会社との間では、本件仲介契約締結に際し、仲介報酬額は売買価格の三パーセントとする旨の合意があったこと(≪証拠省略≫によると、当初、原告と被告会社との間で報酬額について明確な合意はなかったが、被告会社としては売買契約が成立した時には原告に仲介報酬を支払う意思のあったこと、被告会社は建築請負、管理業を営む会社であって原告が宅地建物取引業者であることを知っていたこと、宅地建物取引業法一七条一項に基き大阪府宅地建物取引業協会の定めた不動産取引に関する報酬は、売買代金五〇〇万円以上の場合はその三パーセントであること、がそれぞれ認められ、これらの事実によると、原告も被告会社との間では、報酬は売買価格の三パーセントとする旨の黙示の合意があったものと解するのが相当である。)原告の仲介行為は二年半余りに亘るもので、売主側の売却条件が次々と変更されるに従い、移転先の物色にも努力したこと、一方、本件においては、当初より売買対象物件、交渉相手も決っているなかで、その相手に売却を決意させ、具体的な売買条件を調整することだけが仲介行為の目的であったこと、右二年半余りのうち後半一年程は被告会社の小路山常務が被告山本との交渉に直接関与し、原告と右小路山常務とはあたかも共同仲介者のような関係にあったこと、そして移転先物件としての「あたみホテル」について代金三一〇〇万円で売買契約が成立したのに伴い共同仲介者である訴外大喜商会から計金四〇万円を受領していること(≪証拠省略≫によってこれを認めることができる。)、本件土地の売買代金は金九〇〇〇万円であったが、右価格で成立するに至ったのには、被告会社に、事故を起したことによる会社の信用失墜を早期解決により防止しようとの考慮が強く働いていたためであって、通常取引上の採算を度外視した金額であること、原告が被告山本との交渉に当っていたところ、右原告らで検討の対象となっていたのは売買代金六〇〇〇万円であること、さらに、原告は被告会社から本件土地売買契約成立に伴い金一〇万円を受け取っていること、など前記認定の諸般の事情を斟酌すると、原告の被告会社に対する仲介報酬額は金一五〇万円が相当である。

五、以上、原告の被告会社に対する本訴請求は、金一五〇万円および右金員に対する訴状送達の翌日である昭和四七年二月一三日(記録上明らかである。)から支払い済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分に限り理由があるからこれを認容し、その余の部分は失当としてこれを棄却し、原告の被告山本に対する本訴請求は全部失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 湖海信成)

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